2021.11.01 トピックス オークランド大学による特別講義-OUEL 海外協定校チャンネル2021 第10弾- 留学?国際交流


 厳しい暑さとコロナ禍の夏を超え、アメリカへの留学再開を皮切りに、本学では秋学期の「OUEL海外協定校チャンネル」が始まりました。今回、ご講演いただいたのはニュージーランドの名門オークランド大学のChangzoo Song先生です。Song先生は、ナショナリズムと政治の関係や、朝鮮系ディアスポラのグローバルな展開などを専門とされています。
 今回の講義では、「トランスナショナルな民族共同体の力―新疆スタイルのラム串ビジネスにイノベーションと国際化をもたらした朝鮮系中国人の起業家精神-」という題でお話しいただきました。それではいったいどのような「民族共同体の力」が国境を越えて(トランスナショナルに)動いていったのでしょうか。以下で詳しくみていきます。
 

食文化から見る「国境を越えた人の移動」

 移民や難民など、現代を象徴する「人の移動」にはさまざまなものがあります。経済的な機会を求めて動く移民、政治的な理由や紛争により母国を終われる難民。はたまた、異邦の地で祖国を望みながら暮らす「ディアスポラ」という存在など。このような「人の移動」には、飛行機やバスに乗って体が物理的に移動するのみならず、「文化」も一緒に移動するのです。
 この見過ごされがちだが、私たちにとって最も身近な点に、Song先生は目をつけました。そこで登場するのが「食文化」です。私たちの身近にある食文化には、ローカルなものがある一方で、外国から輸入されたものもたくさんあります。普段何気なく食べている料理のなかにも、深い歴史が秘められているのです。
 この観点から、Song先生は長期間の現地調査を行い、朝鮮系中国人の人々の移動と彼ら/彼女らのビジネス活動を、虫の目をもって観察しました。移民や難民という言葉はよく聞くけれど、具体的なイメージがつかみづらいこともあって、これから展開されるお話に、学生たちは息をいや唾をごくりと飲み込んでいました...。
 

人の移動がもたらした食文化のイノベーション

 現在の中国には多様な民族がいます。そのなかに「朝鮮族」と呼ばれる、朝鮮系(Korean)の人々がおり、おもに東北三省(吉林?黒龍江?遼寧)に居住しています。彼ら/彼女らこそが、Song先生の調査ターゲットです。この朝鮮系の人々は、食文化に非常にこだわりを持っている人々でした。故郷の味を大切にするとともに、外国の食文化にも敏感で、積極的に取り入れていく性格の持ち主たちです。
 ある日、朝鮮族の人々は、イスラーム教徒が多く住む新疆ウイグル自治区で食されている羊肉に興味を持ちました。しかし、これまでに朝鮮族の人々には羊肉を食べる文化がなく、肉の匂いや、なんといっても羊のかわいらしい見た目に心を悩ませていました。
 しかしながら、羊肉を一口ほおばってみるとなんと美味!さらには彼ら/彼女らの嗜好品であるビールによくあうではありませんか。羊肉が朝鮮族の人々の「企業家精神」に火を付けます。朝鮮族の人々は、この羊肉の串焼きをメインとしたレストランを次々とオープンさせ、同胞の人々の舌をうならせていったのです。さらには、羊肉を食すときの細かな工夫をほどこしたり、地道ながらも継続的な努力の結果、このレストランは中国の大都市に支店を開くようになり、今では海外進出まで果たしています。ここに朝鮮族の人々の「起業家精神」と「イノベーション」が見て取れます。
 以上のお話からは、異なる文化と文化、すなわち新疆ウイグル自治地区のイスラーム教徒の食文化と、中国に住まう朝鮮族の食文化が接触をする「コンタクトゾーン」がみてとれます。そして、冒頭に紹介した朝鮮族という「民族共同体」のビジネス展開というパワーは、多様な文化と混じりあいながら、国境を越えてグローバルに展開していったのです。
 Song先生のお話は、目から鱗、いや「舌からよだれ」の快活トークでした。学生たちは、お昼前ということもあり、お腹をすかせながらも真剣な質問をいくつも飛ばし、活況な会となりました。今回の講義を受け、中国と韓国の歴史を新たな観点から学べたという感想や、Song先生の紹介する羊肉料理がおいしそうで、ぜひ現地に行って食してみたいとの感想が出ました。
 

オークランド大学とのつながり

 最後に、協定校としての関係をご紹介します。オークランド大学と本学は、長年のパートナーとして多くの取り組みを行ってきました。2015年には英語教育に関する覚書を交わし、2021年のオープンキャンパスでは同大学によるオンラインでの留学体験会が開かれました。
 オークランド大学は、言わずとも知れたニュージーランドを代表する国立大学であり、社会科学と自然科学の両方で、非常に高い国際的評価を得ています。
 これまで本学はオークランド大学に多くの学生を派遣しており、コロナ禍を越えて訪れる日はそれほど遠くないかもしれません。引き続き、オンラインを上手に活用しながら、日本にいながらできる留学体験を進めていきます。
 次回のOUEL海外協定校チャンネルのバトンは、海を越えてアメリカのハワイへと移っていきます。乞うご期待!