2023.01.18 お知らせ 【経営学部 特別講演】「新しい価値を世界に広げる」アイロボットの挑戦 キャリア?就職 学生生活 教育?研究


皆さんはロボット掃除機の「ルンバ」をご存知でしょうか?
CMでもおなじみのこの商品を生み出したアイロボット社の日本法人であるアイロボットジャパン代表執行役員社長、挽野元様による特別講演が12/8(金)に、経営学部生に向けて行われました。講演のテーマは「アイロボットの挑戦」。人々の暮らしをより豊かにするために、どのような事業に取り組んできたのか、アイロボットジャパンの挑戦の軌跡をお話しいただきました。

 

ロボット掃除機の誕生 ~SFから生まれるイノベーション~

「ロボットって何?」そう尋ねられて思い浮かべるものは何でしょうか?挽野社長の質問に受講した学生たちは「人型に近いもの」や「人の命令に従って動くもの」など様々なイメージを回答していきます。ロボットといわれるとドラえもんなどのキャラクターを想像する方もいるかもしれませんが、ルンバもそんなSFアニメから着想を得て生まれたそうです。
 
アニメの中に出てくる家事ロボット「こんなロボットが我が家にもいてくれたらいいのに …」誰もが考えたことがあるような空想を実現してしまったロボットこそが「ルンバ」なのです。挽野社長は、ルンバの誕生秘話から、動作原理、AIプログラムの着想をどう得たのかなど、製品が生まれるまでの過程を説明してくださりました。
 
商品開発や経営戦略で重要視される「イノベーション」は、決して飛躍的な発想が必要なものではなく、意外にも身近な「あったらいいのに」をきっかけに起こるそうです。これらをルンバの事例を通じて解説していただいたので、学生たちも興味深く聴いていました。
 
※イノベーション:ビジネスに新しい価値を生み出す変革
 
 

市場創出期と市場拡大期 ~事業戦略の違いを学ぶ~

 
●市場創出期

見たことのない商品の価値は、なかなか市場には広がらないものです。アイロボット社が開発したルンバも販売開始当初(市場創出期)には多くの苦悩がありました。
約20年前、ルンバは当時の販売総代理店を立ち上げた方の熱意とリーダーシップによって国内で販売が始まりました。当時の日本では「ロボット」とは鉄腕アトムやドラえもんといった「おもちゃ」を連想させる言葉でした。また、アニメの影響もあり「人型」のイメージも強く、円形のロボット掃除機ルンバは「体重計」と間違われることもあったそうです。
Dysonのスティッククリーナーや、コードレス掃除機とも違う、「ロボット掃除機」という新しいカテゴリーを創出したルンバでしたが、市場にはまだ、”ロボット”を受け入れる準備が整っていませんでした。
 
●ロボット掃除機から自動掃除機へ
名称変更というシンプルな手法を用いつつ、おもちゃと認識されやすいロボットというワードを置き換え、家電として市場への浸透を図ったことで、ルンバは少しずつ受け入れられるようになりました。日本では自動洗濯機や自動販売機など、「自動」という言葉に自分の代わりに物事を行ってくれるという意味合いが込められている風潮がありました。ロボット掃除機から自動掃除機と呼称の工夫をすることで、アイロボット社が伝えたかった「掃除はロボットがやるものという新しい価値観」を市場に発信することができたのです。しかしながら「自動掃除機なんて使って楽をすると罰が当たるんじゃないか」というような消費者の心理的障壁もあり、市場の理解を得るには時間がかかりました。
 
 
●市場拡大期の事業戦略
時代は平成から令和へと移り変わり、人々の生活も徐々に変化していきました。QOL(Quality Of Life)が重視されるようになると、自動掃除機への需要は高まりを見せるようになり、合理性を重んじる人も増え、「マイナスを0にする仕事はロボットに任せて、0を1にする仕事を楽しむ」というアイロボットが提唱する価値観も少しずつ浸透してきました。市場にロボット掃除機を受け入れる環境が徐々に出来上がってきたのです。

そんな背景の中、アイロボット社は、市場拡大期を視野に入れ、2017年に日本法人アイロボットジャパンを設立しました。1家に1台ロボットがある時代をめざし、事業戦略の転換をスタートさせていったわけです。組織マネジメントにおいては、上司が意思決定の全てを担うトップダウンの形から、現場からの提案を重視するミドルアップの経営スタイルを取り入れました。ミドルアップの組織となったことで現場の声を参考にした販売方法も生まれました。1台数万円する「ルンバ」には、「自分の家でうまく稼働するかわからない」という不安を抱える消費者が多いことや、新しい価値観を持っている消費者の多くがまだ可処分所得が高くない世帯で、高額な製品を買えないという資金面の課題もありました。そんな現場からの意見を取り入れ、試用期間ありのサブスクリプション型の販売形式を導入。「高いという認識」を持っている消費者のイメージを覆し、さらなる市場の拡大を図りました。
ビジネスモデルも多くの仲介業者が介在する「商社モデル」から、「ブランドビジネスモデル」へ変更。直接的に販売店や顧客と関わり製品を売り込むことで、製品の魅力や価値をダイレクトに届ける戦略を展開していきました。
他にも、「ルンバ」という一つの商品を売っていくのではなく「ブラーバ」や今後新たに生まれる新商品を売り出すために、アイロボットという社名の浸透度を上げることを心掛ける、ブランディングを行っているそうです。
 
「ルンバ」という新しい価値を創造し、世界に広めてきたアイロボット社。常に市場を分析し、時代とともに戦略を変えつつも自分たちの軸は曲げずに製品の販路を拡大していく挑戦の物語を挽野社長にお話しいただきました。「イノベーション」や「ブランディング」、「トップダウン?ミドルアップ」など、どれも経営学部では当たり前のように学ぶワードですが、実社会の一つの製品の流れとともに学修することで、これまで学んできた理論の汎用性や実用性を今回の講演を通じて学生たちは実感したのではないしょうか。
 

 

企業理念や企業文化の重要性

アイロボット社のめざすビジョン
 
世界で最も思いやりのある技術と
安心して任せられるホームイノベーションによって
豊かな暮らしを共に創造する
 
挽野社長は最後にアイロボット社の企業理念をお話ししてくださり、これから社会へ出ていく学生に向けて、「企業が大切する価値観と自分が大切にする価値観が一致していることが重要だ」と話してくださりました。また、質疑応答の時間もいただき、挽野社長が欲しい次の家庭用ロボットは?といった質問から、組織の在り方や組織内のコミュニケーションの手法、ミドルアップのシステムなどについて幅広い質問がありました。
 
 今回の講演を通じて学生たちは、自分たちの学ぶ理論というものが市場や社会でいかに活用されているのかということを学びました。経営学部ではこれからも企業で活躍するビジネスパーソンの方々の協力を得て、理論だけではない実学の学びを重視し、 社会で活躍できる人材の輩出を行っていきます。「実社会で活きる学びに取り組みたい」そう考える方はぜひ経営学部の扉を叩いてみてください。 企業や社会、世界の見え方が少しだけ変わりますよ。
 

 

アイロボット社

100を超えるロボットの実用化に成功し、ロボット分野では世界有数の特許数を誇るリーディングカンパニー。メキシコ湾における原油流出事故の海底調査や東日本大震災の原発事故への支援をはじめ、医療現場や宇宙探査、紛争地域など多岐にわたる場面で活躍するロボットを生み出しています。また、家庭用ロボットを初めて実用化し、ハウスクリーニングに新しいカテゴリーを開拓。今では4,000万台以上のロボットが世界中の家庭で活躍しており、人々の暮らしをより豊かにするために、挑戦を続けている企業です。